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小さな花のついたヘアピン。
アイツに似合うかもな。
そんなことを思う自分に苦笑を浮かべる。
なんつうオレらしくねえ考え。
それでも、それを手に取りレジへと向かう。
ばかばかしいが、ささやかなお礼。
駆け寄ってくるコイツには黙っておこう。
***
「今日は本当にありがとうございました!」
笑顔で話すコイツに、オレは“気にすんな”と返す。
今は夕方から降り出した雨を防ぐために買ったビニール傘の下、嬉しそうに笑うコイツと二人、コイツの家へと向かって歩いている。
「本当に楽しかったです! 見えませんでしたが、人の熱気は伝わってきました!」
そんなものか?
その言葉にも“はい”と笑顔で返すコイツに、自然と顔が綻ぶのを感じる。
コイツと出会ってから、ずいぶんオレは丸くなったな……。
ピチャピチャと楽しそうに水を跳ね上げながら歩くコイツを見、苦笑いを浮かべる。
そして、ふと思い出したのはポケットの小さい袋。
中身は……。
おい、と声をかければ、“はい?”とこちらへ笑顔を向ける。
一瞬、“もらわねえんじゃねえか?”とよぎる。
何も声を上げることができなくなったオレに“どうかしましたか?”ときょとんとした表情で問うコイツに、オレは恐る恐る口を開く。
「コレ──」
それ以上、言葉は続かなかった。
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