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雨。
「もう!なんて日なの!」
会社帰り。定時で終わった私は、家路を急いでいた。
会社から家までは、30分の距離。家族は、高校2年生の男の子がひとり。部活をしているのと、夏なので6時下校。従って傘を頼める状況ではなかった。
本降りの雨。近いからと、鞄を傘代わりに俯いて走っていたのが悪かったらしい。
───ドンッ!
前を歩いていた人にぶつかった。
「ごっ、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ」
その男の人は、振り向くと素っ気ない声でそう言った。
「小さいな……」
小声で呟くのが聞こえた。
えー、えー、小さいですよ、それが何か?
開き直ってしまう。なんせ、私の背の高さは、145㎝しかない。
俯いている所為か、ぶつかった相手の腰しか見えない。上背がかなりありそうだ。
不機嫌な私に気付かないのか、彼は私にこう話し掛けてきた。
「僕の勤め先が近くにある。付いて来い」
──素っ気ない声だけど、気を遣っているのかしら?
男の人は、私が付いて来ると信じているようで、後ろを向いて歩き出している。
家までは、半分以上ある。付いて行った方が良いのかもしれない。
ちょこちょこと彼の後ろを付いて行く。………つもりだったのに、私の不意をつくように私と彼の所だけ雨が降り込んでこない。振り仰ぐと、紺色の仕立てのいいスーツに身を包んだ彼の、眼鏡の奥の眼と眼があった。その上に、黒い傘が開いていた。
───一瞬顔が熱くなる。綺麗な男(ひと)だったから。
「──ありがとう」
「いや。──こっちだ」
彼が私を連れて行った場所。───その店先で足が止まる。
『クラブ エタニティ』
噂で聞いた事がある。良心的なホストクラブだ。
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