《春夏秋冬》

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時刻は午前5時30分を回った所だった。 誰もいなくなった店内を一通り見渡し、店主はいつものように後片付けを始めた。 最後に残る客は決まって店主と長話をする。 そのためカウンターにはグラスが二つあるだけで他は大体済ませてしまっているので、それほどの作業にはならない。 二つと言うのはもちろん客と店主の分である。 旨い酒は人と話をして過ごした時間が決めてくれる。 『俺は皆から幸せを分けてもらっているんだよ。』 店主はいつもこう言っていた。 相変わらずの無表情だがその口調からは感謝の気持ちが込められているのが分かる。 店主は見た目では誤解されがちだが、人間らしい感情に満ちていて分かりやすい人間だと私は思っている。 今更ではあるが、店主と私は長い付き合いになるが一度として会話というものをしたことがない。
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