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「さよなら」
私は振り返らなくてはいけない。何があっても。振り返ったその先にある『もの』だけには返事をしなければならない。最期の一時くらいは。最期の別れの一時だけには……。
無情にも私の足は前へと進む。踵を返し後戻りをする素振りはない。機械的に動かされる足。まるで自分の意志とは無関係になってしまったのではないだろうか。首は頑なに前方を直視し続ける。私に別れを、哀しみを感じさせる時間は生憎準備されていないようだ。機械的に作動する私の身体。しかし口だけは、口だけは自分の意志に従った。
「さよなら、さよなら瑠璃……。私の……」
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