第一章 さよなら

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「さよなら」  使い古した言葉。過去に何度もこの言葉を使ってきた。それは事実。そして人を傷つけ、自分自身も傷ついてきた。これも事実。 「……わたしも、なの?」  彼女が選んだ日付。聖夜祭で賑わう街並み。綺麗なイルミネーションツリー。様々なクリスマスソング。恋を歌った詩。その中で肩を寄せ合う恋人達。生まれてくる恋と、死んでゆく恋。歓喜に包まれる者と、哀しみに浸るもの。彼女は後者だった。 「何故……。やっぱり、わたしもなの?」 「ごめん。……ごめん」  踵を返したまま答える。 「やっぱり、わたしもなのね……」  哀しい声が後ろから聞こえる。そんな声で囁かないで、僕が振り返ってしまう。振り返ってはいけない。振り返ってはならない。これでいい。これでいいのさ。お互いが一番傷つかないで済む……これでいい、のさ。
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