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最期に見えたのは、十二月の満月と輝けるイルミネーション。最期に聞いたのは安っぽい天使のラッパと午前零時を告げる時計台の鐘の音。あいつの悲鳴。
不思議と痛みはなかった。しかし、痛みをこえた何かを感じていた。口の中が血の味で満たされる。苦い鉄の味。衝撃が身体に走ると共にぐらりと世界が揺れ、僕の身体は宙に舞った。ぐしゃりというアスファルトからの鈍い着地音が耳にかろうじて届いた。
嗚呼、あいつの声が聞こえる。そんな声で泣かないでおくれ。振り返ってしまう。僕は振り返ってしまう。
あいつはもう僕がいない僕を必死に抱き留める。血が白いブラウスにシミを作る。誰がどう見ても助からないことが分かる。それはあいつも同じ。あいつもそれを理解している。でも、認めない。ただそれだけ。僕を支点に周囲がざわめいているにもかかわらず、この場で唯一、僕だけが第三者で、ただ上から眺めているだけであった。
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