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ドブネズミ
「どうやら溝鼠が迷いこんできたようだね」
おれが意識を取り戻した場所はまったく知らない屋敷の庭だった。
青々と生い茂る芝生に倒れ込んでいたらしく、鼻には芝やら花やら土のにおいが香ってくる。
なのにどうして血のにおいがするのだろう。
まるでおれが人殺しのようじゃないか。
「人を殺したのかい」
優しく冷たい声色。
「殺してない」
「汚いね……はやくお上がり」
どうして匿ってくれる。
もしかしたら、本当に殺したかろしれないのに。
あなたは一体誰なんですか?
どんな顔をしているのですか?
目頭が熱くなり、雫を溢していた。
「泣いてはいけない」
雫を拭ってくれる。
優しくて冷たい手は心地がよい。
おれはまた意識をとばした。
これが出会い。
そして、おれの人生は少しずつ変わっていったのだ。
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