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「あっ…あの、斎藤さん?」
「………………」
巡察の最中。
千鶴の横を歩く斎藤が急に足を止めた。
千鶴が問うも返事がない。
ただ黙って千鶴を見ていた。
こんなことは過去にはない。
先に行かせているとは言え、隊士たちがいつ戻ってくるかもわからない。
それに、浪士がここに居ないとは限らない。
なのに、沈黙したままだった。
当の斎藤は、考え込んでいた。
自分の在り方と、自分の心に。
決意に変わりはない。
新選組の一員で在ることは…。
たが、今はもう一つの感情がある。
原因は千鶴のことだった。
男の自分に合わせて歩くのは、女である千鶴には苦労だろう。
なのに弱音を吐かない。
いくら男の振る舞いをしていても、それは苦痛ではないのか。
斎藤は、それが気掛かりだった。
以来、斎藤は千鶴に調子を崩されていった。
「…どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない」
「また刀のことでも見ていらしたんですか?」
千鶴のその瞳に、自分が映っていいのだろうか…?
複雑な心のまま歩きはじめた斎藤の隣には、いつもと変わらない千鶴がいた。
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