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「里亜、里亜ぁっ……あっ」
岬里亜の顔に表情は無い。声すらだしていなかった。乱れていないのに、女は乱されていく。
気晴らしのように僅かに顔を動かした彼女と、目が合った。
驚きも何もない、静かで落ち着いた妖しい瞳。
今迄何回も見たことのあるその瞳が初めて、蛇のように見えた。
いつもならば、優しい目と言えるのに。綺麗な目だと、言えるのに。
それは纏わりつき、絡み付くような目と視線だった。
暫くして声は止み、雑談が聞こえてくる。あたしは咄嗟に隠れるように美術室の机の下に身を縮こまらせた。
「じゃーね、里亜……」
「はい、では早く帰りなさい。心配されますよ」
「うん、ばいばぁい」
帰らなきゃ、帰らなくては……。そう考えた瞬間に、光が入り込んできた。
「やっぱり君でしたか、岩城ちゃん……」
「岬、先輩……」
艶めいた、顔。笑う、彼女の、
口が、動く――――
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