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「遅かったですね」
けだるげに少し色素の薄い髪をかきあげ、彼女は笑った。あの日と同じ様に椅子に腰掛け、携帯を弄っている。
少し吊り上がった瞳があたしを見据えた。捕らえるような鋭い目で。
「君から呼び出しておいて、私のが早いとはどういうことですか」
扉の前に立ったままのあたしに近づき、あたしの顎に手をかけ、唇の端をあげて笑う。普段から笑みを絶やさない彼女。けれどあたしを見据えるその瞳は笑ってはいない。そんなに嫌だったら、来なければ良いのに。
「私に何かを期待して呼び出したのでしょう?」
ふざけるな、このナルシスト。全員があなたに期待をしている訳じゃない。切れそうになる感情を理性で必死に抑えた。そうして淡々と言い放つ。
「何を勘違いしているか知りませんが、あたしがあなたを呼び出したのはそんな理由じゃありません」
「では、何が理由ですか?」
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