真夜中の電話

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 菜穂の言葉にあたしは思わず思考が停止した。らしくなく感情に任せて言い放つ。 「は?! 誰がそんなことをっ……?!」 「美織も登録したサイトの人に……」 「……なんだネットか」 「なんだじゃないよぉっ……! 好きだったのに、私好きだったのにぃい……」  ひっく、ひくと嗚咽を漏らす声。鼓膜を濡らしてあたしの恋愛に関する冷たい部分に染み込んでいく。あたしは冷たい人、だから。分からないんだ。菜穂の痛みが。それを隠し優しい声音であたしは言った。 「菜穂……、落ち着きなさい。ゆっくり深呼吸して」  電話越しに少し小さくなる嗚咽。落ち着いて行く気配。只今日菜穂に事情を聴くのは酷かも知れない。酷く、繊細だから。あたしは明日菜穂と会う約束を取り付けて電話を切った。 「……はあ、」  ぼふん、と体をベッドに沈ませ、そのサイトを開いた。何人かの人々の最新日記。それを開くと"彼氏"役の人とイチャイチャとしている他の友人がいた。 あたしが執事役をしてる子。昨日まで散々あたしに"キス"をしてきた子だ。『愛してるよ』とか言ってきた子。 「……ははっ」  乾いた笑いが唇から漏れていく。代用品は、漸く用済みらしい。擬似恋愛といっても体力を使う。他の子とじゃれただけで嫉妬されたりするから。 久方ぶりに感じる安堵感にあたしは携帯の電源を切るとゆっくり眠りに落ちていった。
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