魔法使いの物語

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男の子の魔女裁判の日がやって来ました。 男の子は逃げようと既に決心していたので、小さな隙を鋭い眼で窺っていました。 広場には桟敷(サジキ)が設けられ、公開裁判となります。 貴族の方々が桟敷の席に続々と着きました。 最後にこの国の王様が、輿に乗って広場に参られました。 赤い絨毯の巨大なロールを手で押して、赤い道を作る奴隷の男達。 ラッパ隊が王様が通る警告を奏でます。 絨毯の上を、美しい女達が篭から花びらを撒き散らし歩きます。 そしてやっと、王様の登場です。 屈強の男達が何人も担いで安定した輿に王様は座ってます。 その輿のまま桟敷に納められて、王様は高見の見物です。 これでは間違いなく魔法使いだと審判されて、男の子は火炙りにされてしまうのでしょう。 不運なことに男の子は、みせしめに選ばれてしまったのです。 男の子は涙を拭くフリをして、肩を上げて頬に擦り付けました。 腐った作物の強烈な臭いを我慢しながら、シャツの衿に隠した丸薬を口に含みました。 とても嫌な味がしたのは、腐った作物のかけらが一緒に口に入ってしまったからでしょう。 牢屋に繋がった鎖を外されるのを辛抱強く見てました。 衛兵が牢屋から男の子を出そうと、横に付いた背の低いドアを潜る為に足を折りました。 男の子は衛兵に体当たりを喰らわせて、思いっ切り衛兵の背中を踏み付けました。 反動を利用してジャンプして、そのまま空へ駆け上がりました。 口に含んだ丸薬は、空を飛ぶ魔法の丸薬なのでした。 男の子は振り返らず、空の上を走りました。     
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