『 ヤツ 』

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   ズズッと醜い音を立てて豆乳を飲み干し、少し噛んだ跡のあるストローを口から離した。 此の時、お弁当のシューマイが喉に詰まったような気がしたのは、ヤツの一言が嫌味に聞こえて、腹が立ったからに違いない。  「あら、そう。有難う」  無愛想に云ってのけ、お弁当の蓋を閉めた。 未だご飯が残っていたが、早く此の場を切り抜けたかったのだ。  「未だ残ってるじゃん、美味そうなのに」  「胃が小さいのよ」  「勿体無い、そんななら俺に作ってよ」  手際良くお弁当箱をしまって、云い捨てた。  「そんな暇、無いわ」  颯爽と席を立ち上がり、未だこちらを眺めているヤツを背にして、其の場を去った。  
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