少女A

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そして不意にA子は足を止めた。 渋谷駅の井の頭線方面の横幅の広い通路。 そこの一面のガラス張りから渋谷のスクランブル交差点が一望できるのだ。 珍しく晴れた冬の朝。 しかしどこか空気が重く、薄い空がだらりと垂れる。 (渋谷はやはり人が多い) A子は満面の笑みで考えていた。 渋谷の人口は夜になれば、どこに行くんだか分からない人でさらに増える。 一体全体何を目指してるのか。 左目は、左手で作られた指の眼鏡からその景色を覗いている。 A子はこの場所が好きだった。 井の頭線から降りてくる人や井の頭線に乗り込もうとする人が常に賑わいすれ違っていくこの空間、そしてガラス張りの向こうにある人の群れ。 後ろを向けば壁の代わりに赤や青で飾られた、どこかまがまがしい絵が待ち構えている。  
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