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いくつもの運命と願いとが絡み合い、ぶつかり合った“闇の書事件”。遠い過去から、近い過去から紡がれてきた悲しみも、今は穏やかな時間とともに想い出に変わる。
海鳴大学病院のある一室で、少女は晴れ渡った青空を見上げていた。年も変わり、暖かい日差しが差し込むも季節はまだ冬。いくら暖かくなってきたとはいえコートが未だ手放せない―――そんな、ある日のこと。
はやて
「今日はお日様も出ててぽかぽかやね……」
八神はやては起き上がったベッドに背もたれながら伸びをする。その傍らで花瓶の中の水を取り替えてきたシャマルが相づちをうつ。
シャマル
「そうですね………」
はやて
「なのはちゃんたちは、今頃授業中やろか……?」
シャマル
「マラソン大会……だとか言ってましたよ」
と、シャマルは自分の口にしたことにハッとなって慌てて謝る。
シャマル
「ご、ごめんなさいはやてちゃん……」
謝るシャマルを見て、はやては咎める様子など欠片も見せずに従の失言を笑って許す。
はやて
「ええよそない謝らんでも」
そう言いながらも、はやては無意識のうちに布団で隠された自らの足を見やる。
はやての足の病気の原因は、“闇の書”によるもの。まだ成熟しきっていないうちに覚醒してしまったため魔力の源である“リンカーコア”と密接に繋がってしまったことによる浸食が原因だった。だがそれがなくなった今、はやての足は徐々に回復をしてきている。僅かながらではあるが、確かに感覚を取り戻しつつある。
早く立ちたい。早く歩けるようになりたい。そしたら、みんなで学校行って、それからそれから………
はやて
「………シャマル」
黙りこんでいたはやてにいきなり呼ばれ、シャマルはおっかなびっくりに声をあげる。はやてはシャマルを真っ直ぐ見上げ、やる気に満ちた瞳を向ける。そんな主の考えを悟って、彼女は笑顔で答えた。
シャマル
「リハビリ、行きましょうか」
はやては力強く頷き、車椅子に乗った。
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