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その日…僕いつものように兄と森で修行に来ていた。
最初はどうして僕が修行なんてしなければならないんだと思っていたが、これもエリートである為の試練だと思えば苦にはならなかった。
それどころかしばらくすると幼稚園をサボって修行に明け暮れる日も多くなり、僕は完全に孤立の道を辿っていた。
…力が欲しかった。
何者にも負けない強い力が。
それから三時間が過ぎた。
「そろそろ昼にしないか?俺はもうヘトヘトだよ…。ヤス、お前も疲れただろう?」
兄が言った
「そう…だね…。」
僕が答える。
確かに…三時間も剣を振り回して疲れない幼稚園児なんているはずがない。
これは僕でも例外ではない。
「よし、じゃあ早速飯にするか!鏡花を待たせちゃ悪いからな!」
兄はとても、疲れているようには見えなかった。
今思えば兄は本当は疲れてはいなかったんだろう…。休憩を提案したのは僕の体を気遣ってのことだろうな…。兄は僕が自分から休憩を提案するはずが無いことを知っていたから…。
僕のプライドを傷つけることなく休ませる為にあんなことを言ったんだろう。
兄の不器用な愛だった。
ちなみに、兄の話に出てきた鏡花とは僕の妹のことだ。
僕達は幼い頃に両親を失っているため、兄が僕と鏡花の父親同然だった。
その為、兄が家を空ける時は僕と鏡花は施設で過ごすことになっていた。
つまり、この時は鏡花は一人で僕達の帰りを待っていたのだ。
兄としてはそんな鏡花に寂しい思いをさせない為にも早く帰ろうという気持ちがあったのだろう。
昼食を食べ終わるなり、
「さて、早く帰ろうか。最近見つけた近道からなら十分もあれば帰れるはずだ。」
と言った。
近道なんて僕は聞いたことが無かったため、内心少しの好奇心と不安を抱いていた。
まさか、その不安が現実のものになるなどと知らずに…。
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