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この街唯一の魔法学園が行う聖夜祭は、毎年多くの人を呼び、街を賑わせていた。
普段学園に立ち入ることが許されない街の住人も、この日ばかりは学園の立ち入りが許可され、魔法を間近に見ることができるのである。
様々な出し物の中でも各学年対抗で行われるミュージカルは人気があり、特に小中高等部の最上級学年の魅せる魔法パフォーマンスはその技術の高さから評判が高く、毎年多くの見物人を魅了してきたのである。
美しく彩られたイルミネーションが街を覆い、ちらちらと音もなく降り続ける雪に色を付けていた。魔女の格好をした物売りや、聖夜祭を待ちわびた人々でごった返す通りを、脇目もくれずに無我夢中で走り抜ける少女。
彼女は考えていた。なぜ今年に限って自分のクラスなのか。
彼女にしてみれば運が悪かった、と言うしかない。聖夜祭でミュージカルを披露するということは、この学園では名誉なことである。彼女のクラスはその名誉ある催しに、最も注目される最上級学年となった今年ようやく披露する権利を得たのだ。
喜ばない者はいなかった。彼女を除いて。
ガトーが実技試験で学年一位にならなければ。
先程の出来事を思い出し、彼女は奥歯を噛み締めた。
なぜ自分のクラスなのか、その答えは既に彼女の中で出ていた。
今までミュージカルを担当した最上級学年は、その二ヵ月前の実技試験で一位となった生徒のクラスが選ばれている。そういった噂を、彼女もまた信じていた。だからこそ実技試験の結果発表の時、皆が大喜びする中世界の終わりのような絶望的な気分になったのだ。
ガトーが実技試験の練習を繰り返していたのを彼女は知っていた。この名誉ある権利を得るために努力していたことも知っていた。
彼女にしてみれば、彼の存在は恐怖だった。
魔法は好き。けれど覚えるのは不得意だった。一つの魔法を習得するのに人の何倍もの時間を要した。だから何時間も練習してきた。その努力があったからこそ、今までなんとかやってこれたのだ。
それなのに。
歌やダンスをこなしながら全員が息を合わせて魔法を繰り出すなんて、初めから自分には無理なことだった。レベルが高すぎる。
ミュージカルなんておちこぼれの自分には手の届かない場所。与えられるはずのない名誉。
だからこそ強い憧れを抱いていた。私もいつか、あの舞台に――と。
現実は、彼女に重くのしかかった。
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