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「----で?」
老人も通行人も見えなくなったのを見計らい、チカが口を開いた。
「何盗ってきた?」
「…………」
ヒメが、ふっ、と煙を速く吐く。
チカはヒメの煙の匂いを感じた。
ロリポップのような、人工的な甘い香り。もしかしたら葉巻だったのだろうか、見た目は細身だったけれど。
大烏のような青年はサングラス越しに眼だけで哄った。
「気付いたか」
「流石にそれは。ていうか」
紙袋を持ち直し、息をつく。
「ヒメ、俺が気付かなくても怒るでしょ」
「はっ」
ヒメは、葉巻だよ、と強いチェリーの匂いのする箱を投げて寄越した。
やっぱり上機嫌だ。
機嫌は良いに越したことはない。もし悪くとも放っておくだけではあるが、そこには発砲の可能性が十分有り得る。
そんなに頻繁に部屋やら身体やらに弾痕を残す訳にもいかないし、唯我独尊を極めるこの暴君の前では、殆んどの常識も、面倒であるというそれだけに集約されるのだ。
----それにしても。
そんな彼が何故、ここまで、わざわざ?
沈黙を読んだのか、暴君は簡潔に、チカにこう告げた。
「仕事だ。ジジイが起こしに来た」
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