dawn

2/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「……ん。よし」 卵、レモンとライム、小麦粉、炭酸水。 ビールに、ラム酒、ブランデーが3種、ウイスキー2種……それに、煙草が3種各2カートンずつ。 チカが抱える紙袋には、それだけの戦利品が詰め込まれていた。 時刻は朝5時。 こんなに早起きするのはいつぶりだろう。 見馴れている筈の薄汚れた煉瓦づくりの街並みが、何処か夢の中のように思えた。 荷物も軽く感じる。機嫌、気分とも上々と言えた。 買い忘れはない。 右手のメモを再確認して頷く。 すると不意に自らの髪からアルコールの気配がした気がして、チカは昨晩のことを思い出した。 昨日は休日であったのも手伝い、店も久しぶりに繁盛していた。 ――――いや、『繁盛』なんて生ぬるい。 否、最初に入ったのは常連の顔見知りで――あの人明日も来るとか言ってたような――しばらく店内にも客ひとり店員がふたりと、経営面を無視すれば、まあ平和な状態であった…のだが。 一人二人と徐々に客は増えていった。 次第に埋まってゆくカウンター、次はテーブル、グラスも追い付かなくなってきた…そしてそう、あれはきっかり8時。時計の盤面までありありと思い出せる。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!