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……そんなわけで、本朝における買い出しにいたるわけだ。
・・・・・・・
せめて家賃分、それに自分たちの本業の手伝いをして貰っている分だけは働かねばならない。
チカはそんな発想すらないであろう彼を思って、ごく小さく苦笑した。
マスター曰く、市場での買い物は、いかに良いモノを安く手に入れるかがポイントである、らしい。
『野菜は特に。新鮮さが命ですから、レモンやライム、オレンジなんかは市場がいちばんですね』
趣味でやっているとしか思えないのに、なかなか本物の香り漂う台詞である。
朝市に来るのも久しぶりで、何をどこで買えば良いのかを思い出すのに苦労したが、マスターから渡された予算と照らし合わせるに、なかなか好成績だ。
――――いや、値切れってことか?
ふと足が止まる。
そういえば、レモンを買った露店にいた客は、店主らしき壮年の男性と、やたら長いこと話していた。
もしかして、あれは値引き交渉だったのだろうか。
「……まあ、いいか」
彼ならいざ知らず、自分が試みたところで成功するとは思えないし、とりあえず予算は越えていない。
チカは店へと歩きだした。
しかし眠い。
昨日は結局寝付けなかったし、早く帰って自分も寝ようか。
チカが欠伸をしかけた、その時だった。
「――――そこのおにーサン、ちょーっと顔貸してくんね?」
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