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軽い男の声がした。
思わず何とはなしに下げていた視線を上げる。
するとそこには――
―――そこには、チカの眼前には、鈍く黒光る掌があった。
「――――っ!」
――――掌底!
瞬間、チカは右脚を軸にしゃがんだ。
そのまま回転、手をついて、慣性を利用して左脚を前方へ振り抜いた。
一蹴。
しかし生憎と外したようだ。
が、とりあえずは相手と物理的に距離を置ければよい。
そういう目算だった。
それにしても。
――――誰だ。
ズレる視界の端で掌の持ち主を捉える。
ごく明るい金髪の色に思わずチカは知り合いを連想したが、やはり見覚えもない別人だ。
身体をそのまま右に回転、今度は左脚を軸にして、立ち上がりながら振り向きざまに右足を上げる。
上体を反らし、
男の下顎を、蹴った。
「がっ…………!」
そのまま無抵抗にチカの靴底を喰らい、緩やかな放物線を描いて、男は仰向けに、煉瓦敷きの道に倒れる。
チカはようやく息をついた。
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