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ひゅう、と掠れた口笛が聞こえた。
「兄ちゃん、やるね」
寂れた露店の老人が、横たわる男を一瞥して小瓶の酒を煽っている。
この老人も、店の常連のひとりだ。とはいえ、酒は買わず、ただ会話を楽しんでいることが多い。
「…まあね」
肩を竦めて、チカは答えた。
(………あ)
そういえば、自分は朝市の戦利品を抱えたままだ。
品物は無事だろうか。
反射的に左腕を見る………うわ、ひしゃげてるよ。
なんだかもう中まで確認するのが恐ろしくて、考えないことにする。
(この金髪、どうしてくれるんだよ俺の信頼!)
起き上がってこようとしない男を、ありったけの恨みと泣きたい気持ちとを込めてにらんでやった。
もちろん反応はない。
………いや、気絶、だよね?
「いやあ若いってのはいい」
チカの狼狽をよそに、老人は話を更に続けていた。
「そうかな」
焦りを隠して答える。
自分では、そうは思わないけれど。
「思わないだろうな。でも、そうさ。大事な財産だと俺は思う。なァ、あんたも、そこの黒い兄ちゃんよ」
老人はチカの後ろを指差した。
「え?」
つられてチカも振り返る。
――――黒い?
「ずっと見てたんだ、ほれ、この兄ちゃんは大したもんだ。そう思うだろ?」
そこには、彼――――エゴイズム、『暴君』、…チカの同居人、ヒメが、至極怠慢に存在していた。
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