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「…………どうした」
身体ごと反転し、チカが話し掛けた。
わざわざ外に出てくるなんて、考えにくいが迎えにでも来てくれたのか…
…………200パーセントない。
チカの困惑も余所に、ヒメは大きな欠伸ひとつで応じる。寝起きは、彼にしてはまあ上々のようだ。
そしてヒメは、まさに『黒い兄ちゃん』であった。
薄手の襟口が大きく空いたTシャツ、レザーのジャケット、細目のパンツ。
加えて自身の頭髪、果てはチカには見覚えのない形のサングラスまで、すべて黒。
見事である。
たしかに。
『黒い兄ちゃん』としか呼びようがない、とチカは思った。
しかしもし自分がこう呼ぼうものなら弾丸の5、6発は覚悟しなければならない。消音器も付けずに、朝っぱらから、確実にぶっ放しにくる。断言できる。
それで、チカが場をとりあえず収めるのがいつもの流れで。
----それが、やるべきことだ。
「チカ」
「うん」
唐突な呼び掛けに、脊髄反射で言葉を返す。
ヒメは煙草をくわえてこちらを見ていた。
「火」
「………それ言う為にここまで来たのかよ」
「阿呆か」
サングラスの隙間から、眉間に皺が寄ったのが見えた。
良いから火、と言われてチカはコートのポケットを探る。
「ねえ、ジッポあげたよね?」
「置いてきた」
「そうですか」
その辺既に諦めている。
「あ、マッチ」
「ん」
「あいよ」
ヒメが煙を吸い込んだのを見て、チカは未だ立ち去ろうとしない老人に別れを告げ、店への道をやっと進みはじめた。
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