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月も星も飲み込まれてしまったかのような、暗い夜だった。大通りに設置されているいくつもの街灯の明かりですらどこか鈍く見え、歩道の暗がりを満足に照らしていない。
いつものように、食べ物を探して夜の街を彷徨っていたときだ。昨日は何も食べることができなかったから、今日は何かお腹に入れておかないといけない。そんな夜のことだった。
手の中に一枚の紙切れがあった。
街灯の微かな明かりにそれを照らしてみる。紙幣ぐらいの大きさで、藤のような明るい青紫色。所々に破けた跡があり、縁には黄ばみが目立っていた。中央には色の薄いインクで何かしらの文字が書かれているが、擦れている場所が多すぎて読むことができない。
「それを持って駅に行きなさい。きっと、君は幸せになれる」
目の前で女の人がそう言った。この紙切れをくれた人だ。
紙切れから視線を外し、女の人に移す。女の人は僕と目線を合わせるためなのか、しゃがみ込んでいる。間近に顔があるはずなのに、街灯の明かりが逆光になっているせいで、銀縁の眼鏡を掛けていることぐらいしか、わからなかった。
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