第一話  昔話・はじまり

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 書斎の中にいた、ギルバートは、聖王騎士団がユーナを連れて行った後で、何か複雑な面持ちで書斎の机に腰をかけていた。    すると、廊下から人の気配を感じ取ったギルバートは、ふと扉の方へと視線を送る。  そのときのギルバートのお顔は先ほどの顔とうってかわりユーナと対峙していたときの、党首たる風格を表すような顔ぶれに変わっていた。  ギルバートの視線の先には、何か真剣な面持ちをしたカインがいた。  すると、カインが口を開いた   「わざわざ聖王騎士団を使ってユーナ様をどこへ連れて行かれたのですか?」  それを聞いたギルバートは、あらかじめ予期していたかのように、何事もなくただ低い声でカインに対し返答をした。   「お前に関係なかろう、ただの使用人風情が口を挟むことではない」  確かに、たかが使用人のカインがこの件に関して口を出すべきではないことをカイン自身存じていたが、今は、その思いをこころの中へとしまいこみ固く封印して、なおも、ギルバートに対し食らいつく。  「たしかにそうかもしれません、ですがギルバート様同様ユーナ様も私の大事な主君です。その主君の身を案じてはいけませんか?」  その一言を聞いたギルバートは、カインの顔を見て、少し考えた。  すると、ギルバートは、おもむろにとあることを口にした。  「カインお前は、ユーナの思い人を誰だか知っているか?」  その一言を聞いたカインは、驚きの顔を見せた。  そのカインの顔を見たギルバートはおもむろにため息を漏らし、カインに対して再び話しかけてきた。  「そうか・・・お前ですら分からんのか・・」  このとき、ギルバートは、あることを思い付く。  そして、カインに語りかける。  「今、ユーナは、地下牢にいる。」 ただその一言だけであったものの、カインには、ギルバートが自分になにを言いたいのかがすぐに分かった。  すると、カインが口を開く。  「私にユーナ様の所へ行ってその思い人のことを聞いて来いと仰るのですか?」  そのときのギルバートはただ目を瞑り、無言であった。  それは、今現在ユーナが自身の父親よりもカインのほうが信頼されていることをあらわし、また当主としてではなく一人の父親としての願いだということも表していた。
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