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時は1582年(天正十年)6月2日の未明である。
京の本能寺にて絶叫する者があった。
「主家に弓引くは何処の戯け(たわけ)ぞ!?」
叫び問うは前右府こと織田三郎信長である。
信長の問いに答えが響いた。
「明智十兵衛光秀が臣、斉藤内蔵助利三なり!
天下の大逆人織田信長ッ、その首貰い受けに参った!」
「よう言うた!しかしうぬらごときに討ち取られる儂ではないわ!この大戯けが!お蘭ッ弓を持てい。」
「はっ、かしこまってござる。」
今、お蘭と呼ばれたこの若者、その美貌で名をはせた信長小姓衆の一人、乱丸こと“森 蘭丸”である。
…ビシュンッ 信長の放った矢は大きく弧を描き利三の甲冑を貫き、利三の右肩に到達していた。
利三はそのまま落馬した。
すかさず信長が下知を下す。
「力丸、坊丸、合図の狼煙(のろし)を上げよ!」
力丸と坊丸(ともに蘭丸の弟)は赤と白、二色の狼煙を上げたその時、光秀率いる明智軍本隊が到着した。
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