1.出会い

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その日の昼休み。 勇也は机一杯のパンを見下ろして、にっこり4人に手を振った。 「やあご苦労!本日の500円は俺の小遣いに変わったよ。サンキュー!」 「くっそ、やられたぁ…。益々ムカつくあのやろ~…」 頭を抱える長野を見上げて、とぼけた顔で指摘する。 「そういう逆恨みはよくないよ?そもそも賭けなんか始めたお前らが悪いんでしょ?ダメじゃない方に賭けてたって、結局ムカついてたんでしょうに。諦めれば?」 「なんだよ、橘はあいつの支持者か?随分肩持つよな、さっきから」 不機嫌そうなクラスメートに、勇也は肩をすくめた。 「支持なんかしてないよ。ただのクラスメートじゃん。それ以上でも以下でもないし。不支持じゃない理由も同じだよ?意識し過ぎてんのはお前らじゃない?」 「う…。まあ確かに…」 「言われてみればそうだよな…。なんか虚しくなってきたぜ…」 「あいつに比べりゃ、俺たちゃ虫けらだ~!」 「虫けらは虫けら同士慎ましく生きていくぞ~!」 「虫けらばんざ~い!」 いやいやそこまで卑下しないでね? 腕を掲げて去って行く4人の背中に、エールを送る勇也である。 50メートルタイムの結果は、有無を言わさず勇也に軍配が上がった。 何秒を境に『運動音痴』を定義付けるか。 そんなことは相談すらしていなかったのに、黒川悠一がはじき出したタイムは、4人を絶句させて、勇也を笑顔にした。 6秒2なんて、クラスで4番目の俊足じゃん。 俺なんか目も当てらんないじゃん。 午前中を回顧しながら4種類のパンでお手玉していると、当の本人が前からやって来た。 当然自分なんかに目もくれない黒川悠一だったが、横を通り過ぎる瞬間、勇也は思わず声をかけていた。 「黒川!」 「……」 立ち止まって振り返った顔は、相変わらずの無表情。 そして呼吸を忘れるような麗人顔。 「パンを沢山ありがとね」 「…パン?」 「そう。アンパンマンの仲間達実写版、みたいな?」 「よく分からん」 真顔のままで呟くと、何事もなかったように歩いて行った。 当然の反応だった。 勇也が黒川悠一と初めて交わした、限り無く一方的な会話。 おそらく向こうは覚えてもいないだろう。 この夏に起きた事件に比べれば、あんな些細な賭事は、教室の片隅に溜まった埃同然だったのだから。
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