2.衝撃

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期末テストを終えたばかりの、7月頭のことだった。 日本中が激しい熱気と湿気を纏い、夏の前半戦に既に白旗を掲げていた。 「自殺だって…」 「有り得ないよね…。かっちゃんに限って」 周囲の同級生の動揺は、勇也の動揺そのものだった。 勝浦菜子。 クラスでは明るく元気で人気者。 成績も良く、いつも笑顔で溌剌な発言。 今朝登校したら、正門にテレビカメラやマスコミが殺到していた。 教師の誘導でなんとか教室に辿り着いたものの。 夏の暑さは一掃され、淀んで冷えた空気が校内を灰色に染めていた。 勝浦菜子が自殺した。 勇也も仲が良かった女子だ。 いや、勝浦はクラスメート全員と仲が良かった。 あの無口で感情乏しい黒川悠一とさえ。 勇也はとっさに彼の姿を探した。 いつもと変わらず自分の席に座って、微動だにせず空を睨んでいた。 その表情からは、怒りも憂いも何も読み取ることは出来なかった。 全校集会での校長の話は、耳を塞ぎたくなるほどイライラした。 あんたが勝浦の何知ってたってわけ? 啜り泣く同級生の気配を感じながら、勇也はただ矛盾と戦っていた。 マスコミの食い付き様も凄まじかった。 都内トップの進学率を誇る名門校で起きた惨事。 勝浦が自殺したのは自宅の自室だったらしいが、そんな事は何一つ影響しなかった。 しばらく名山の周辺は歩き辛かった。 明らかにマスコミと分かる連中を睨み付け、群がるハエを払うように登下校する日々が続いた。 夏休みを目前に控えた頃。 遺書が見つからず、学校生活のひび割れも見当たらず、勝浦の自殺は驚くべき早さで風化されつつあった。 ただ1つを除いて。 戻って来た期末の結果を眺めた後、勇也は斜め前の空席に視線を注いだ。 勝浦の席は、自殺後すぐに撤去されて、そこに誰もいなかったかのように詰められている。 その入れ替わりに、ずっと空席になっているクラスメートが気がかりだった。 「…あ、五十嵐。五十嵐って、夏目と仲良かったよね?」 通りがかった女子を呼び止めたのは、頭に浮かんだ疑問を明確にしたかっただけ。 本当にそれだけだった。 五十嵐は笑顔で振り返った。 「仲いいよ?」 「夏目、あれからずっと休んでるよね?理由知ってる?」 「ああ…。たぶん、かっちゃんの事があると思う」
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