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途端に顔を曇らせた五十嵐に、勇也は首を傾げた。
「あるって何が?」
「うん…。夏目はかっちゃんと仲良かったのよ。一緒に行動してたからね。たぶん、今回のこと、凄くショックだったんだと思う」
「…ふーん」
どうもありがと。トイレ呼び止めてごめんね。
「トイレじゃないし!橘くんのエッチ!」
いやいや、トイレは人間に不可欠な生理現象であって、エッチとかそういう問題じゃないよ?
どうでもいい事を熱心に語る自分の肩を、豪快に叩いて去っていく五十嵐だった。
勇也はぼんやり黒板を眺めた。
端から端までびっしりと、前の授業の数学の内容が敷き詰まっている。
週番は何やってんのかねぇ。
そんなお節介じみた心配をしながら、徐々に視界が霞んだ。
おかしくない?
いくら仲が良かったからって。
なんで学校休むわけ?
親友の自殺は、それは衝撃的だろう。
でも、終わってしまったのは勝浦の人生で、夏目の世界は回ってるのに。
週番がようやく黒板の内容にトドメをさしに向かった。
それと同時に、背後から五十嵐が戻って来た。
「ねえ五十嵐!」
「えっ、なに?橘くん、もしかして私に気がある?なら大歓迎よ?」
「いや全く無いんだけどね?ちょっと教えてくれる?」
「……見事な失恋ぶりを披露したわね、私。で、何を?」
あれ本気のつもりだったの?
呆れておいて、机に手を突っ込んで、最初に触れたノートを取り出す。
一枚破って手渡した。
「夏目の家知ってる子いない?もしいたら、駅から地図描いてくれる?」
「ああ、私知ってる。たまに顔見に寄るから」
告白に行くなら嘘描くわよ?
疑念の籠もった視線を受けたが、笑顔で流した。
「告白じゃないよ。激励に行くだけ。間違っても五十嵐の家の地図なんか描かないでね?」
「あら、バレた?」
真顔で舌を出しつつ、書き直す様子がない五十嵐に、心から感謝する勇也だった。
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