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真新しい制服を着込むのは、多少照れを感じる。
あからさまに新品のスニーカーを履いて歩くのが、やたらこっ恥ずかしいのに似ているかも知れない。
勇也は2階の自室の姿見の前で頭を掻いた。
ま、十分だよね。
着られてる感もないし、1年生に見えないわけでもないし。
1人納得して部屋を出ると、階段の手前で姉とかち合った。
自分を足先から頭まで眺めた後、姉は大袈裟に仰け反った。
「げげっ、あんたそれ名山の制服じゃん!?あんなとこ通うわけぇ!?あんたが妹じゃなくてよかったわぁ。比べられて悲惨だったでしょうね、私の人生は…」
「ていうか理沙姉、俺が名山受かったこと今知ったの?」
凄い時差だよね。ウチの中に日付変更線走ってるわけ?
「弟の高校なんか興味ないも~ん」
「あ、そ」
俺も姉の私生活に興味ないし~。
心からの本音を呟きながら、軽快に階段を降りて行く勇也だった。
のんびりペダルを回転させて、心地良い4月の晴天の街を駅に向かった。
過ぎ行く風の頬への触り心地は、冷たくも暑くもなく上々だ。
家から駅まで自転車で約5分。
ふた駅先で降りてから名山までは、徒歩で約10分。
我ながら恵まれた環境だと思う。
名山の門をくぐり、予め通知されていた1のAの教室に向かった。
教室に着くと、並んだ机にそれぞれ名札が貼られていた。
自分の席は教室のほぼ中央で、取り立てて荷物もないので、席に座ってぼんやり辺りを観察した。
ウチの中学から名山に受かったのは、自分の他に男子が2人。
面識はあっても、さして仲が良かったわけじゃない。
それにどうやらこのクラスにはいないみたいだし。
ゼロからのスタートも悪くないよね。
のんびり構えながら、遠慮がちにざわめく教室に身を置いていた。
やがて数分が過ぎた頃。
担任らしき教師がひょっこり顔を出し、廊下に集合をかけた。
出席順のまま男女一列に整列し、入学式へと体育館に向かった。
メインは自分達に他ならないとはいえ、退屈極まりない30分ほどの儀式が始まるのだった。
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