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ここの教師は不親切な人間が多い。
名山の教室に居並ぶ生徒は『これが出来て当たり前』だ、という前提で授業を進める。
下らない質問を受け付ける雰囲気は微塵もなく、油断すれば果てしなく放置される。
宿題の量も半端ではない。
各教科で出された宿題を全てまともにこなせば、帰宅してから夜中までを平気で要する。
これが伝統校名山の実態ね…。
万事において余裕の構えの勇也も、最初はいっぱいいっぱいだった。
でも慣れれば自分に合った。
やがて暦は初夏を迎え、ブレザーに重みと厚みを感じ始めた頃。
宿題のペース配分にもすっかり慣れ、寝不足からも解放され始めた勇也の気分は、来るべき夏に向けて爽快だった。
夏は好きだ。
気分が軽くなる。
女の子の肌露出度も上がるし。
何より世界に活気が満ちる。
両腕を天に向かって力一杯伸ばし、運動場の片隅にあぐらをかいて笛の音を聞いていた。
「俺メロンパン!」
「どっちに?」
「もちダメな方!」
「長野は?」
「俺はダメな方にカレーパン」
「じゃあ俺はダメにクリームパン。…ってみんなダメなら意味ねぇし」
背後から聞こえてきた会話に、勇也はのんびり振り返った。
男4~5人が頭を寄せて、何やらコソコソやっている。
「なあにお前ら。昨日のアンパンマンの批評会?なら一番強かったのはドキンちゃんだよ?」
「…橘、お前見てんのかよ、アンパンマン…」
「見てるわけないじゃん、何言ってんの」
「ならそのセリフはどっから来た?」
「イスカンダル」
は?
ぽぽぽん、とクラスメートの頭上にはてなマークが並ぶ。
気にせず詰め寄った。
「で、何がダメなの?」
「あ、ああ。あんな?黒川の50メートルタイムだよ」
「黒川?」
意外な名前に小首を傾げる。
今日の体育は、時期外れのスポーツテストだった。
特進クラスには体育の重要性が限り無く低いらしく、体感温度が上がる時期までは、ずっと室内競技に徹していたのである。
合同授業のパートナーであるB組の男子が、笛に合わせて50メートル疾走する様子を順番待ちしている最中だ。
「黒川のタイムがなんなわけ?まだ走ってないでしょ?」
「だからあ!あいつが運動音痴かどうか見定めてやるんだよっ。賭け賭け!」
随分愉快そうである。
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