303人が本棚に入れています
本棚に追加
勇也は首を振って視線を辺りに漂わせ、未だ会話したことのないクラスメートの姿を探した。
黒川悠一は、斜め前方に座っていた。
片膝を立てて腕を乗せ、ぼんやり前を見据えて放心していた。
周囲を取り巻くように数名のクラスメートが群がっているが、本人が望んで身を置いた位置ではないのだろう。
話し掛けられれば何か答えているが、その無表情に変化はない。
笑うこともなければ、不快に顔を歪めることもない。
まるで感情を忘れてきたかのような少年だ。
「お前らも暇だねぇ。あいつが運動音痴ならどうだっていうわけ?」
勇也の呆れ声に、男子4人は結束したようにいきり立った。
「だってよ~!ああいう優等生タイプって、なんか無条件でムカつくし」
「何もしなくても備わってます、みたいな澄ました態度がなぁ。あんだけ女子に騒がれたら、自分のモテ具合だって心得てんだろうに。見向きもしねぇ余裕な態度も腹が立つんだよ」
あからさまに眉をしかめて、4人が鼻息を荒くする。
勇也はキョトンと首を傾げた。
「優等って、生まれ持った素質だけで培えるもんじゃないよ?お腹から出て来てすぐにしゃべったんなら別だけど。それに、本当に女の子に興味ないんじゃない?好きでも何でもない子にマジになられたら、案外困るもんだよ?」
「う…。お前が言うと実感籠もってるよな…」
女子の人気はほぼ橘と黒川で2分されて久しいし…。
友人の悲嘆に暮れた呟きを無視して、勇也は黒川悠一から視線を外した。
どんな組織でも、人が集まりゃああいうタイプは必ず1人や2人存在する。
異性からの絶大な支持に比例して、同性のやっかみは必然的に高い。
B組の50メートル測定が終了した。
集合がかかって、ゾロゾロA組が整列し始める。
かったるそうに腰を上げる黒川悠一を、勇也はもう一度眺めた。
でもそれって、本人が望んだ現実なんだろうか。
あいつの性格なんか知らないけど、他の誰かに迷惑かけなきゃ、好きにさせろって言いたいだろうね。
「ねえ長野」
「おう?」
「俺はダメじゃない方にアンパンマン賭けるよ」
「アンパンマン!?だから俺らが賭けてんのは購買のパンだっつーの!」
「ならアンパン」
「うっし!いただきぃっ!」
4人が揃ってガッツポーズした。
それでも少しも後悔は感じない勇也だった。
最初のコメントを投稿しよう!