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「けど、どうする? 少女を差し出さないと、あの魔物達はまた来るらしいじゃないか。」
誰かがポツリと呟くと、それまで騒がしかった部屋内に水を打ったような静けさが広がった。
みんな、気付いていた。知っていた。けど、誰も触れなかった事。
「十程の年の少女を……この街の為に……」
「おい、コルダの娘……十歳じゃなかったか?」
「サフラの娘も十歳だったはずだ!」
「お、お、俺の娘は殺させないぞ!? 贄にするなら、他の奴がいるじゃないか!!」
最初の一言が皮切りだった。それからは、大人達の口は止まらない。次々と怒号と罵声が飛び交い、悲鳴や慟哭が漏れだした。
誰々の娘が十歳だ。誰々ならいい。街が滅びる。贄を差し出せ。
そんな、醜い争いが……私の目の前で繰り広げられる。
いつも優しい肉屋のサフラさんや、冗談ばっかり言って笑わせてくれるトムソンさん。
今は二人でつかみかからんばかりの形相で、威嚇するような言い争いをしている。
あまりしゃべらないけど力持ちのコルダさんは、歯を食いしばるようにして泣いている。
それを、パパが慰めるようにそばに付いている。
そんな中、私と勇者様だけが……何も言わずに黙って眺めていた。
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