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「リース、部屋を出よう。もう寝なさい。」
「嫌。」
「寝なさい。」
「嫌!!」
コルダさんを慰めていたパパは、急に私に向かって近付いてきた。そして、肩に手を置いて……寝なさいとだけ呟く。
けど、私は眠れない。さっきの出来事は頭から離れず、眠気という眠気を全てぬぐい去ってしまっていた。
しかも、怖い。蘇るあの記憶は……目の前で繰り広げられる争いなどよりも、ずっとずっと恐ろしい。
独りにしないで。私は怖い。
「パパは、お前にこんなものを見せたくない。我が儘を言わず、寝なさい。」
でも、パパはそれを分かってくれない。ただ、寝なさいと呪文を唱えるように繰り返すだけ。
「町長の娘……」
その言葉が耳に入った時、嫌な予感が背中を走った。もはや悪寒に近いほど、ゾッとする言葉。
私の体は無意識に、本能のように反射的に、言葉が放たれた人物の方向に向けられていた。
目が、合った。
見開かれた目。その目の持ち主は、コルダさん。さっきまで泣いていた優しいコルダさん。
そのコルダさんが、私を血走った目で食い入るように見つめている。顔を覆った手の隙間から、ギョロリと目だけが覗いている。
「町長の下の娘は……」
嫌だ。嫌だ嫌だ。その続きは聞きたくない。
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