勇者様との出会いと、ある出来事

13/13
前へ
/30ページ
次へ
 ガタガタと体が震える。私の体が震えている。  いや、違う。震えているのは私だけじゃない、肩に手を乗せているパパも震えているんだ。  次の言葉が分かるから、震えているんだ。 「町長の下の娘、ミーナも確か十歳だ……」  ザワザワとガヤガヤと。耳障りな程騒がしかった部屋が、徐々に徐々に静かになった。  そしてこちらに向けられる目、目、目……  血走り、焦点が少しズレた目。恐怖と狂気が混ざり合った目。何も言わず、けど……言葉以上の意思が込められた視線が……  パパと私に集まった。 「町長。町長はいつも言っているよな。私は街の為になら何でもすると。」 「違う。違うんだ。そういう意味じゃない。」  獲物を前にした獣のような、ギラギラとした目。集団で狩りをするように数で囲み、パパへと少しずつにじりよる。  怖い。私の知っている大人達じゃない、人の闇が剥き出しになった大人達。  その大人達が、私達を追い詰めようとしている。私の大事な妹を、自分達の身代わりに奪い去ろうとしている。  まるで弱い者を数でいたぶるように。自分だけが助かろうと、卑しく浅ましく……けど本能に素直に。 「町長、あなたの娘を。」 「あなたの娘を。」 「この街の為に。」 「為に。」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加