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肩に乗せられたパパの腕から、小刻みな震えが伝わってきた。冷たくぬるりとした汗が、首筋を這うように流れ落ちる。
「待って下さい!」
しかし、この運命的で絶望的なこの状況に、割り込んでくる声があった。勇者様だ。
「皆さん、待って下さい。いくら街の為だからって、簡単に生贄を出したりするのはおかしい!」
立ち上がった勇者様の訴えに、大人達は冷めた目で勇者様を見つめている。何だろう……あの光を失った目。
まるで、死人のような目。
でも、勇者様も諦めなかった。そんな孤立無援な状況でも、勇者様の口は閉じられない。
「皆さん、ここで私に一つの提案があります。」
右手の人差し指をピンと立て、大人達に突きつける。挑戦状を叩き付けるかのような仕草に、しかし大人達に変化は無い。
言葉が通じていないのだろうか? そう思わせるほど、大人達は無反応。
だが、勇者様は話しを続ける。剣を片手に胸を張り、勇者様は次の言葉を発した。
「私が……あの魔物達を倒してきます。」
「勇者様!?」
思わず、私の口から言葉が漏れだした。だって、あんな恐ろしい魔物と……戦うなんて言い出したんだから。
流石に大人達も、この言葉には動揺したようだ。人形か何かのようだった大人達から、ザワリと声が溢れ出す。
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