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無理だ、とか。
勝てる筈が無い、とか。
好き勝手に勇者様へと言葉をぶつける大人達。誰も……誰も勇者様が勝てるとは微塵も思っていないみたい。
信じていない。それ程までに、追い詰められているんだ。
「勇者だからって、口で言うほど簡単に出来る筈が無いだろ!」
「そうだ! さっきも、一匹倒すのがやっとだったじゃないか!!」
「……確かに、さっきは一匹しか倒せなかった。でも!」
勇者様が声を張り上げ、必死に主張しているのに。
その声は、大人達の醜い反論にかき消されてしまっている。こんなにすぐ近くの私の耳にさえ、明確には聞こえない程に。
「次は必ず、あの魔物達を倒してみせ……」
「そんな綺麗事を言って、本当は逃げるつもりじゃないのか?」
まるで勇者様の存在すら否定するかのように。言葉は目では見えないけれど、その一言が勇者様の心を貫いたのが。
私にははっきりと分かった。
無情、の一言が頭をよぎる。何故、ここまで勇者様に酷い事が言えるのだろう?
勇者様の剣を握る手に、更に力が込められる。赤を通り越し、白。いや、もはや青。蒼白と混ざり合い、悔しさを色にしたような色。
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