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「コノママ全員ヲ皆殺シニサレルノモ嫌ダロウ? ソンナ可哀想ナ貴様ニ、慈悲ノ心ヲ与エテヤロウ。」
「慈悲の心なんて……魔物風情が何を言う……」
ギリ、と勇者様の歯を食いしばる音が聞こえた。まるで歯軋りするような、憎悪のこもった音。
けど、勇者様は知っている。自分一人では、目の前の全員の魔物達を倒す事が出来ない事に。
悔しい。勇者様は悔しいんだろう。私も悔しい。悔しくて、涙が出るくらいに。
「ソウダナ……贄ヲ差シ出セ! 十程度ノ幼イ、少女ノ生贄ヲ差シ出スンダ!!」
「なっ……!?」
生贄……? 幼い少女の生贄を、私達の変わりに差し出せと、あの魔物はそう言ったの?
「ふざけるな……」
「イイノカ? コノママ全員皆殺シニシテホシイノカ?」
勇者様が、ゆっくりと俯く。その表情は、勇者様の後ろに居る私には見えない。
でも、分かる。
勇者様の手には、大きな剣。その剣を握る手からは、一筋の血。
痛い程に握り締められた手は、その力に耐えきれず、悲鳴を上げている。
けど、勇者様は剣を握る手を緩めない。
「少し……考えさせてくれ。」
「イイダロウ、明日ノ夜ニマタ聞キニ来テヤロウ。ソノ時マデニ、精々答エヲ出シテオクンダナ。」
勇者様が絞り出すように答えると、魔物達は軋むような笑い声をあげながら、ゆっくりと私達に背を向けた。
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