勇者様との出会いと、ある出来事

9/13
前へ
/30ページ
次へ
「コノママ全員ヲ皆殺シニサレルノモ嫌ダロウ? ソンナ可哀想ナ貴様ニ、慈悲ノ心ヲ与エテヤロウ。」 「慈悲の心なんて……魔物風情が何を言う……」  ギリ、と勇者様の歯を食いしばる音が聞こえた。まるで歯軋りするような、憎悪のこもった音。  けど、勇者様は知っている。自分一人では、目の前の全員の魔物達を倒す事が出来ない事に。  悔しい。勇者様は悔しいんだろう。私も悔しい。悔しくて、涙が出るくらいに。 「ソウダナ……贄ヲ差シ出セ! 十程度ノ幼イ、少女ノ生贄ヲ差シ出スンダ!!」 「なっ……!?」  生贄……? 幼い少女の生贄を、私達の変わりに差し出せと、あの魔物はそう言ったの? 「ふざけるな……」 「イイノカ? コノママ全員皆殺シニシテホシイノカ?」  勇者様が、ゆっくりと俯く。その表情は、勇者様の後ろに居る私には見えない。  でも、分かる。  勇者様の手には、大きな剣。その剣を握る手からは、一筋の血。  痛い程に握り締められた手は、その力に耐えきれず、悲鳴を上げている。  けど、勇者様は剣を握る手を緩めない。 「少し……考えさせてくれ。」 「イイダロウ、明日ノ夜ニマタ聞キニ来テヤロウ。ソノ時マデニ、精々答エヲ出シテオクンダナ。」  勇者様が絞り出すように答えると、魔物達は軋むような笑い声をあげながら、ゆっくりと私達に背を向けた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加