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彼女が噂の金髪をなびかせて入ってくると、クラス全員男女問わず感嘆の吐息を漏らした。
彼女の美貌、そして豊かで艶やかな髪によるものだ。
彼女は無表情ながらも穏やかな微笑みを浮かべ、これまた噂に違わぬ見事な碧眼で周囲をゆっくりと見渡した。
それはまるで視察にやってきた姫のようで、誰にも平等で慈愛に溢れた微笑み。
が、
「――――っ!」
「?」
気のせいかもしれんが、なんか俺と盾を見た瞬間に顔が一瞬強張った気がする。
その事を確認しようと後ろを振り返ると、盾はポワポワと夢見心地な笑みを浮かべていた。
……駄目だこいつ。早くなんとかしないと……。
俺はそう思って盾の頭を拳で叩く。 カンと軽い音がした。
「―――っは!なんだよ剣斗!?」
「今、あの子俺達を見て顔が強張らなかったか?」
「さあ?俺はわかんねえけど。
てか、アレじゃね?お前の長髪見てびっくりしたんじゃね?」
「そうかね?」
盾の言うとおり、俺は長髪だ。これは中学時代から変わらない。理由は簡単。妹が俺の髪を褒めてくれたからだ。
中学時代に妹に何一つしてやれなかった中で、妹が褒めてくれたこの髪は傷つけないようにしようと誓った。
まあ、そんないきさつも去る事ながら、この女のように長いストレートロングも慣れれば割りと良いものだ。
まあ、そのせいで俺が不良共に絡まれる率が高くなっていたのは確かなのだが。
「まあ、どっちにしても。」
盾はニコニコとしながら続ける。
「あの藤堂じゃなくてよかったじゃん。」
「そうだけどさ。」
ため息まじりにそう返す。
確かに、中学時代の藤堂にあんなエンジェルスマイルはできないだろう。少し安堵したな。
すると、前の方からごんごんと黒板に文字を書く音がした。
自己紹介かと思い、前を向く。
そのウエストは制服越しにでもわかるほどほっそりとしていて、膝丈程の長さのスカートからは白く細い足が晒されていた。別に足フェチというわけではないが、少しドキドキする。
転入生の少女はくるりと前を向いて白いチョークで書かれた名前を公開し、自己紹介に入る。
「始めまして。この学校に転校してきた、藤堂愛姫(トウドウ アイヒ)と言います。よろしくお願いします。」
そしてエンジェルスマイル。
皆はその微笑みにまた吐息をつくが、俺と、おそらく盾は視覚と聴覚から伝わってくる情報をまだ信じられずにいた。
そして一言。
『は?』
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