あいつはやってきた

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 声を出してから行動に移るまでの動きは素早かった。 俺が獲物を逃がさぬように睨みつけ、その間に盾がすぐ後ろの清掃用具庫からブラシ部分が壊れてなくなっているモップを俺に渡す。  そして俺は棒を右手にぶら下げて、右肩が前になるように体を半身にした。昔から変わらない、戦闘時の俺の構え。  彼女、藤堂愛姫なる人物は目の前の現実を受け入れたくないとでもいうように目を瞑っていたが、担任の 「何やってんだ?荒井剣斗、河井盾。」 の一言で完璧に顔を強張らせた。 そして二秒、三秒が経過する。  と、 「うぅ、ぅううえぇぇぇぇ……。」 突然泣き出してしまった。  俺と盾の突然の変貌や、彼女が思いっきり顔を強張らせた事にイマイチついていけてなかった担任とクラスメイトは、とりあえず目の前の事実。 【転入生の少女が2人を見た瞬間泣き出した】 という事に着目し、恨みがましいジト目でこっちを見てきた。  本心では、(なんで!?何であの金獅子が泣き出すん!?) とか思いつつも、表面では 「い、いやあ、誰か別の人と勘違いしちゃってぇ。」 とか無理のありすぎる言い訳を並べた。 担任はそれが見え透いた嘘だと分かっているようだが、そうかそうか。と頷き、いやらしい笑みを浮かべながら 「とりあえず藤堂。残念ながら荒井の隣しか席が空いていないんだ。席替えは来月にやるから少しの間我慢してくれな?」 とかのたまいやがった。  そして目頭を押さえて泣きじゃくる彼女を見送りながらも、口元を (なんか面白い事になってきたな。) と言いたげにほころばした担任の笑みを俺は見逃さなかった。
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