あいつはやってきた

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「最悪だ……。なんでよりによって藤堂が……。」 「ああ。だけど少し気になる事があるな。」 「気になる事?」 「ああ……。」  俺と盾はバイト先の控え室で、これまたバイトの内職業をしていた。  耳を澄ますと子供達の元気な、でも気合の入った声が聞こえてくる。  俺達のやっているバイトというのは、すぐ外にいくつかある武道クラブ(?)の用心棒だ。  なぜ武道クラブに用心棒が必要なのか?  それは簡単で、武道クラブにはケンカに覚えのある馬鹿共が案外しょっちゅう来るのだ。  別にそれぐらいなら師範にあたる人がとっちめれば良い話なのだが、やはり世間の顔、それに稽古に来ている子供の目もある。取るに足らない馬鹿に武の技を使って変な影響を与えては困る……というわけ。  ならばケンカ屋にはケンカ屋をぶつければ良い。そうすれば武道クラブに悪い影響は無い。  そういった訳で、俺達はそういう輩が来ると出陣し、軽くとっちめて金をもらっている。そういうことだ。  最近は子供達にケンカならではの簡単な護身術を教えたりしているおかげで、俺達の評判も悪くなくバイト代も弾んでいる。  もっとも、そんなケンカ屋が頻繁に来る訳ではないので、護身術指導もない時は別件で内職業にいそしんでいるわけだ。 「なんで藤堂は俺達を見て泣き出したんだ?昔なら突然襲い掛かってきてもなんらおかしくはないハズなのに……。」 盾が作り終わった小物を完成品袋に放る。 「俺達を見てびびったとか?」 「そうじゃない事はお前が一番知ってるだろ。」 「そうでした。」  俺達はそれにひとしきり笑ってから、再び視線を手の中の小物に落とした。 「………もしかしたら………。」  しばらくしてから盾が呟くように言った。 「もしかしたら……藤堂って俺達と同じように高校デビューするためにこっちに来たとか?」 その言葉に俺は作りかけの小物を取り落とした。 「いや、まさかそんな……。」 「ありえない事じゃないと思うけどな。」 『………。』 2人の間に沈黙が満ちる。 「じゃあ……。」 俺は重い口を無理やりこじ開けて言った。 「明日……聞いてみるか?藤堂に。」
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