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俺が飯を食い終わると、すぐさま目の前に紅茶の入ったティーカップが差し出された。
見ると姫華の前にもティーカップが置いてある。
俺は礼を言ってからストレートのアップルティーを啜る。
薄すぎず濃くもない絶妙な味。少し熱いぐらいの、少なくとも熱すぎて味が分からないという事態は起こり得なさそうな温度。……いつも通りの完璧さだ。俺の食い終わる時間を逆算し、湯沸しから茶葉のセットまでが計算されつくしたこの食後のお茶は、まさに職人芸と言っても良い。
(しかし……)
俺はティーカップを片手に、香りを楽しみながら思考する。
(いくらなんでもあの藤堂がなぁ。高校デビュー?笑わせる。
でもなあ、現に藤堂から見れば俺や盾だって似たようなものだしなぁ……。
こりゃ訊いてみるしかないのか?)
そこまで考えてから、ついため息が漏れた。
「? 何かあったの?お兄ちゃん。」
姫華は可愛らしく小首を傾げながら問う。
「いや、別にたいした事じゃないんだ。
ちょっと困ってるだけで。」
「………。」
俺の言葉を聞いた姫華は視線をティーカップの水面に落として黙り込んでしまった。
(やばっ)
「本当にたいしたことじゃないんだ。
心配しなくて良い。もう姫華には一生分くらいの心配をさせちゃったからな。もう心配させるような事はしないよ。」
そういって俺は姫華の柔らかくて艶々した髪をくしゅっと撫でてやる。
姫華はそれに笑顔で返してくれた。
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