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僕はそんなに厳しい言葉を吐く結菜を初めて見た。
結菜の手は震えていた。
「これがお前の言う結婚したい女性か?」
父の冷たい声に僕はびくつき、ゆっくりと小さく頷いた。
「ダメだ…。初対面の目上の人にこんな無礼な態度を取るような人がいいわけないだろう」
思っていた通りの言葉だったが、僕は首を横に振り
「お父様に……そんなこと言われたくありません!!!僕の結婚相手ぐらい僕が選びます!!」
震える声で僕が叫ぶと父は近くにあった灰皿を僕に投げつけた。
当たる!!
そう思った時だった、僕の目の前に結菜が現われたのだ。
灰皿は僕ではなく、結菜に当たった。結菜の顔からは血がとめどなく流れていた。
「ゆ……結菜ァ!!!!」
大きな声で結菜を呼べば、結菜はゆっくりと目を開けた。その目は半分しか開けられていなかったことから、目にも当たったことが想像できた。
「け…い…くん。大…丈夫ですか?」
弱々しく笑い、僕を心配した。結菜の方が重症で、僕は無傷だというのに……
「お…父様…?」
騒ぎに駆け付けた兄が血を流す結菜を見て顔を青ざめて立っていた。
「兄様!!!!早く……早く医者を!!!」
兄は立ち尽くしていたが、僕の言ったとおりに医者を呼んでくれた。
空からは、結菜が好きだと言っていた雪がハラハラと地面に落ちていた。
だからだろうか、益々結菜の血が赤く見えた。
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