舌、出してみろ

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  「は、はは……ハハハハ。なんか、今やるべきことがわかっちまった気がする」 思わず笑えてくる。 あの頃の千尋と今の春樹が被って見えるなんて。 どうかしてんぜ、俺。 「ん?どうしたの飛鳥?剣道でもやる気になった?」 「悪い千尋。ちょっと急用ができた」 言いながら、俺は塀から背を離す。 「え、もう行くの?まだ話したいことがあったんだけど…」 「じゃ今度メールしてくれ。今は行かなきゃいけないんだ」 待ってちゃ駄目だ。自分から動いてでも、なんとかしなきゃ駄目なんだ。 「待って!飛鳥……私のメアドと番号、まだ消してない?」 思わず足を止め、千尋の目を見る。 そして、一応頷いてみる。 「なら……もし飛鳥がその気になったら、いつでも連絡してきて。まだ私、フリーだから」 金本と二人きりでいたところを見られたことを思い出し、俺はなんだか複雑な気分になる。 「あ、でも……なるべく早くしないと、すぐ彼氏ができてしまうから、気を付けてね?」 ったく、相変わらずの自信家め。 「おう、分かった。ありがとな……色々と」 返事も無くただ目を瞑って笑う彼女の黒髪を、爽やかな風が揺らした。 「ただ……悪いな。多分俺はもう、剣道をやらないと思う」 「うん……分かった」 千尋は多分本当に解ったんだ。俺が剣道をやる理由が千尋以外にないって、ちゃんと解ってる。 「じゃ、またな」 少しだけ前に歩き、もう一度だけ振り返り、こちらに手を振る千尋を見てから、俺はその場を立ち去った。 長い黒髪と高校の制服。そして竹刀の袋が、とても彼女に似合っていた。
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