0人が本棚に入れています
本棚に追加
心はすぐに早退し、次の日も学校を休んだ。
あんな事は、初めてだった。初めて、霊を怖いと思った…。
怖い程の、怨念。
苦しみと痛みと憎しみの果て。少女はそこに辿り着いてしまったのだろう。
しかし恐怖と裏腹に、心は少女の本当の姿を見た。
少女は、
少女は、泣いていた。
ほんのわずか見せた、涙。あれが、少女の本当の姿なのではないか…?本当は、怨みとか憎しみとかより、悲しくて仕方がないのではないだろうか……。
真実は、わからない。
母親はすぐに心の所に来て、必死に慰めた。
心も頭では分かっているものの、その時は恐怖と悲しみで母親にきつく当たってしまった。
それから、母親は姿を見せない。
あの日から、4日後、心は不安になり、母親を呼んだ。
「…お母さん?」
返答はない。
「…お母さん…」
泣きそうな声で、母親を呼び続けた。
その時。
《……心…》
優しげな、悲しげな、母親の声。
心は嬉しくて泣き笑いになる。
「もう、来てくれないかと思った…」
泣き出す心を母親は優しく慰め、重い口を開く。
《…世の中には、いい霊ばかりだとは限らないの。怨霊も、たくさんいるのよ……》
ゆっくりと、言葉をつむぐ。
《あの霊は、特に怨念が凄かったわ。お母さんが行かなかったら、心、どうなっていたか…》
優しく叱る母の言葉を、心は黙って聞く。
《お願い、心。もう二度と危険な目には遭わないで……》
見ると母親が泣きそうになっていた。心は「…ごめんなさい」と素直に謝る。
「…でも」
心は母親を見る。
「でも、あの人、泣いてたの…」
母親は驚いて心を見た。
「悲しいって、泣いてたの…」
心は俯き、訴える。
「私にこの力がある限り、多分霊に関わらないのは、無理だと思う…」
空気が、振動する。
「だから…ごめんなさい…」
頭を下げて謝る心を、母親はただ見つめた。
しばらくして、母親は息を吐く。
《…仕方がないのね》
寂しそうに、心の頭を撫でる。その手は、何も掴まない。優しい故、掴めない。
《でも、気を付けるのよ?》
「うん…」
それを聞くと、母親は安心したように頷き宙に浮いた。
《今日は、行くね》
そう言い残し、姿を消す。
心は、涙を拭った。
悲しくて痛い涙は、もう流さないようにと……。
最初のコメントを投稿しよう!