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朝、心が学校へ行く支度をしていると、少年が壁から頭を覗かせた。
《おはよー》
「わッ!」
突然耳元で言われ、心は驚いて少年を見る。
「びっくりさせないでよ!」
朝から心臓に悪い少年を、心はため息をついて睨む。
少年は茶髪をくしゃくしゃと掻いて、けらけら笑った。
《あはは、おもしれ》
心はそんな少年を無視して玄関に向かう。
《何時に帰って来るの?》
浮遊しながら聞いてくる少年に、心は言った。
「遅くなるかも。遊んでくるから」
《友達いないのに?》
からかう少年に心は舌を出す。
「うるさいなぁ!行ってきます!」
ばたんッ、と勢いよくドアを閉めた心に、少年はひらひら手を振る。
《あいよ~》
学校が終わり、心は急いで目的地に向かう。
《あっ、来たぁ!》
元気な、男の子の声。
「ごめんね、待った?」
若干息を切らせながら、心は笑って言った。
男の子はぶんぶん首を振る。
《大丈夫》
そんな男の子を、心は優しく見た。
《さっきねー、友達と遊んだんだよー》
人気の少ない花畑。二人はそこで座って話していた。
「よかったね」
心も嬉しくなり、自然と笑みが零れる。男の子も嬉しそうに《うん!》と頷いた。
空が朱くなり始める。《すごく楽しかったんだー》
笑って言う男の子に、心も終始笑っていた。
《今もお姉ちゃんと遊べて、ぼく幸せだよ》
笑い、話す男の子に、心が話しかけようとした時、
《…だから、ぼくも思い残す事はないや》
一瞬、心は男の子が何を言っているかわからなかった。
「…え?」
心が聞き返し、男の子は立ち上がる。
《ぼく、もういくんだぁ》
笑顔で言う。
「どうゆう…事?」
心は焦りを覚え、必死になって聞く。
「いくって、どこへいくの?いついくの?」
男の子は、にっこり笑って
《今から、天国にいくんだよー》
満面の笑みで、そう言った。
「…なんで…」心が泣きそうな顔になり、男の子が話す。
《ぼくはね、もう死んじゃってるから、ここにはいちゃいけないんだよ》
さっき友達と遊んだ時、気付いたのだと、少し悲しそうに言った。
《だから、いかなくちゃ》
夕日が、沈み始める。
「…でも、私達、友達でいるって……」
心が悲しみを抑え切れず言った。
男の子は笑って頷く。
《うん。ぼく達は、ずっと友達だよ》
夕日が、山に消えかかる。
《お姉ちゃん、今まで、ありがとうね》
男の子が、優しく笑った。
夕日が、消えた。
男の子が、消えた。
心は、一人涙を流す。
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