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沈んだ気持ちは、すぐには立ち直せない。 悲しみはすぐには消せない。 心は改めて、男の子に支えられていた事を痛感する。 《…どうしたんだよ?》 茶髪の少年は心配そうに心の顔を覗き込む。 心は「これではダメだ」と、少年に笑顔を向ける。 「ごめん、大丈夫…」 少年は難しい顔で心をじっと見つめる。 そして、優しい口調で笑った。 《…無理すんなよ》 一言言って、それから少し寂しそうに 《…いっちまったんだろ?友達が》 心を読まれたのではと思うくらいの正確な読みに、心は黙り込む。 《あんたの顔見てれば、分かるよ…》 少年は茶髪をくしゃくしゃと掻いて、《…俺にだって気持ちは分かるし》と付け足す。 心は暗い顔で少年を見た。少年も心を見つめ返す。 《…おんなじ、幽霊だしね…》 笑った少年を見て、心は胸が痛くなる。 …全然、笑えてないよ……。 少年は、笑っているつもりなのだろう。 しかしその顔は、 その目は、赤く染まった太い糸で、無惨に縫いつけられていた。 少年はその日から心の所へ来るようになった。 用も無いのに来ては、雑談をして帰って行った。どこに帰って行くとか、心はもちろん知らない。どこかでうろうろしているのかもしれないし、他の人の所に行っているのかもしれない。 しかし、それは少年にしかわからない。 「ど、どうしたの?」 いきなり差し出された、花。 心は驚いて少年を見る。少年は照れ臭そうに言った。 《来る途中で見つけたんだ。あげる》 心は笑顔で少年を見た。 「ありがとう。すごく嬉しい」 笑う心を見て、少年も嬉しそうに笑った。 心は少年を見て、見て、笑顔を消す。 「…え?」 差し出された、少年の手。ほっそりとした、長く綺麗な指。 その手は、透けている。 「なんかいつもより透けてない?大丈夫?」 不安げに聞く心に、少年は笑う。 《ごめん》 笑う少年に、心は目を見開いた。そして、俯き唇を噛み首を振る。 「…やだ」 俯く心に、少年は笑って言った。 《ちょっと前にいなくなったばっかなのに、ホントごめん》 笑う。 少年の右手が、消える。慌てて左手を差し出し、笑う。笑っているつもりで、笑う。 心は黙って首を振った。 少年は、少し困ったような、優しげな目で心を見つめた。 左手は、まだ消えていない。
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