花 2

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《泣くなよ…》 困ったような、優しげに心を見る少年。 差し出された左手は、まだそのままだ。 《………》 少年は黙って、心に自分の左手を差し出す。 空を切る、左手。 分かっていた事ながら、少し悲しくなり、少年は苦い顔をした。 沈黙の中、 「……いかないで…」 不意にぽつりと呟かれた、心の声。その声はよく聞き取れないほどかすれていた。 「…いかないで…」 顔を上げる、心。 その目は、溢れる涙でいっぱいになり、少年は思わず胸を痛める。 心は、言う。 「…私達、友達でしょ…?どこかにいくなんて、おかしいよ……」 正直な気持ち。今の自分の、素直な気持ち。 いってほしくない。そばにいてほしい。 …友達で、いてほしい。 泣き出す心を見て、少年は寂しそうに笑った。 《でも俺は、死んでるから…》 足が、透け始める。 《幽霊は、成仏しないといけないんだよ…》 ぽつり、ぽつりと、言う。 《…今が、その時期…》 笑った顔には、酷い傷。見る事を完全に阻まれた、少年の目。 心は少年を見る。見て、ゆっくりと少年の顔に手を伸ばす。目に、手を伸ばす。 触れない、手。 触れる事の出来ない、目。 少年は左手で心の手に触れた。 《…親を、憎んでなんかいない》 すれ違う、手と手。 《…誰のせいでもないから…》 存在しない、少年。故にその涙には触れる事は出来ない。 《…俺は、いかなきゃ》 心の中で、ダブる男の子との別れ。悲しい、別れ。 《最後に話せたのが、あんたでよかったよ》 溢れ出す涙。少年の笑顔。 「……まえ…」 《…え?》 「な…まえ…」 顔をくしゃくしゃにして、心はやっとそれだけ言った。 少年は寂しそうに笑って、首を振る。 《…だめなんだ》 教える事は出来ないと、少年は言う。知ってもなんの得にもならないと。 少年は、笑う。 《ホントに、ありがとね》 縫われた目から、涙が光る。存在しない、透明の涙。 心は何も言えず、ただ涙を流す。 少年が、消えていく。ゆっくりと、ゆっくりと。 そして、 《ありがとう、心》 完全に消えた、少年。 心はその場に座り込み、声を上げて泣いた。 もう泣かないと決めていたのに……。強くなると、決めていたのに……。 心はしばらく、花を握りしめ、泣いた。 花は、光となって、跡形もなく消えた。
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