霊感

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『あそこに、女の子がいるの』 幼い頃、私は父親にそう言ったらしい。 『危ないよ』 橋の手すりの上に女の子が立っている。落ちたら危ない、と。父親に訴えたらしい。 しかし 『…そんな子、いないよ』 不安そうな顔で言う父親に、私は不思議な顔をしたそうだ。 『なんで?』と言ったそうだ。 しかし、間違っているのは自分の方なのだと、知る。 少女が学校に登校すると、クラス全員が少女を避ける。全員が少女を軽蔑の目で見る。全員が囁き始める。 それは、少女を嫉妬しての行為ではない。 淡い栗色の髪はショート。大きな目は綺麗な黒。顔は整っていて、決して不細工ではない。 少女の名前は、心(こころ)。 心には、幼い頃からある能力がある。 “霊感”。 いつからとか、なぜとか、心にはわからない。物心ついた時からすでにそれはあって、それが当たり前だと思っていた。 『見えないの?』 そう父親に尋ねた時の、恐ろしいものを見る目。あれが今でも忘れられない。 母親はすでに他界している。父親は心を祖母に預けた。 『もう自分には、面倒は見れない』 と。 『気味が悪い』 と………。 その事を祖母から聞いた時、胸が張り裂けそうになった。 実の父親にそんな風に思われていたなんて。悲しくて涙が溢れた。 しかし、心は父親を憎む事は出来なかった。よくあそこまで育ててくれたと、感謝しているくらいだ。 霊が見える事が当たり前だと思っていた。 霊が見えて、霊の言葉が分かって…。 それが当たり前なのだと、思っていた……。 こんな能力が嫌で、自己嫌悪に陥った。 しかし、霊は何も悪くない。 悪いのは、こんな風に生まれてきた、自分。 自分が全て悪いのだと、そう思って止まなかった。
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