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「きれいなおんなの人がいるよ」
当たり前のように言った心に、友達は驚いて
「…どこ?」
辺りを見回して心を見る。
「あそこだよ、ほら」
友達は、心の指さした方を見る。
そのうちの一人が小さく悲鳴を上げた。
そこは、心の指さした場所は、
―少し前に女性が自殺した、大きな木。
生々しい線香と花の香りは、十分、心を異常だと告げる。
心が独りになるのに、そう時間はかからなかった。
しょっちゅう言う心の尋常ではない発言。友達はそれを聞く度、心を気味悪がり、心から離れていった。
心は、独りになった。
本当の意味での、独り。
幼い少女は、必死にその孤独に耐えていた。
母親は、魂でその少女を見守る。自分の娘が、こんな風に扱われているなんて……。悲しさは、胸を締め付ける。
考えた末、母親が導き出した答え、それは、
再び地上に降りて、娘に会おう。
娘に大丈夫だと、元気づけてあげよう。
こんな事しか思いつかず、自分でも少々がっかりした。しかし、今の娘を支えられるのは、自分しかいない。
…地上に、降りよう。
《―それで、心の所に来たの…》
とつとつと、母親は語る。
心は「やっぱり…」と心の中で呟く。偶然にしては、急な訪問。しかし、それでも心は嬉しかった。だから、今まで何も言わなかった。
《…でもね》
母親は、悲しそうな顔で心をじっと見た。
《お母さんがここに来るのには…条件があったの…》
「…条件?」
母親は頷き、重い口を開いた。
心は、目を見開く。
《…わたしが心に会うかわりに、心の身近にいた霊を早く成仏させる事…。それが、心に会う代償だ、って……》
心は、何も言わない。
《わたしはね、心に会うために、他の霊の魂を神様に売ったのよ…》
涙ぐむ、母親。
透明の小さな雫が、床に落ちた。染みは、出来ない。
心は、何か言おうとして、口を開こうとした時
《…でも、もうそれも期限切れみたい…》
微笑む母親の顔は、なぜか泣いているのに嬉しそうで。
やり切ったような顔で…。
嬉しそうに、笑う。
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